本学鍼灸学科・髙倉伸有教授の研究グループによる開発技術「二重盲検用プラセボ鍼」が『National Geographic』米国本国版に取り上げられました
2026年05月19日 社会貢献・研究
―鍼治療の科学的解明を切り拓いた「世界初の二重盲検臨床試験」の基盤技術―
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世界的に高い影響力を持つメディアとして知られる『National Geographic(ナショナル ジオグラフィック・米国本国版)』HEALTHセクションのプレミアム記事「Scientists are finally decoding how acupuncture eases pain(科学者たちがついに鍼が痛みを和らげる仕組みを解明しつつある)」において、保健医療学部鍼灸学科・髙倉伸有教授の研究グループによる成果が取り上げられました。
記事では、長年にわたり鍼治療研究における最大の難問の一つとされてきた「鍼の真の生理作用とプラセボ効果の厳密な分離」について述べられており、この中で、髙倉教授らの研究グループが米国イリノイ大学シカゴ校(University of Illinois Chicago)のJudith Schlaeger教授らと行った国際共同臨床研究の成果(女性の外陰部痛に対する鍼治療の持続効果)が紹介されています。
Long-lasting effect of penetrating acupuncture among responders: Double-blind RCT of acupuncture for vulvodynia. Journal of Pain 2026;38:105584.
そして、この臨床研究で使用された、髙倉教授らが開発した「二重盲検用プラセボ鍼」は、二重盲検下におけるプラセボ対照ランダム化比較試験という厳密な臨床研究を世界で初めて可能にした「鍼治療の科学的解明の鍵となる決定的な基盤技術」として言及されています。今回の研究成果は、現代医療と同等の厳格な評価基準同様に則った画期的技術であり、この鍼が国際的な評価を得ていることを示すものとなりました。
140年近くにわたって世界の科学・自然・文化の啓発に寄与してきた『National Geographic』が、鍼治療を科学的検証と理解の対象として取り上げたことは、画期的な出来事です。このことは、鍼治療が補完代替医療という従来の枠組を超え、世界水準の科学的議論において国際的に注目を集めていることを明確に示すものといえます。
『National Geographic』 記事のポイント
鍼治療の新しいステージ
鍼治療は長年「未知のメカニズム」とされてきましたが、現代科学の進展により、その正体が解明されつつあります。最新の研究では、鍼刺激が脳内鎮痛物質の放出を促し、脳活動に直接的な変化をもたらすといった、目に見える身体反応であることが明らかになっています。
身体で何が起きているか?
鍼が組織に刺入されると、細胞レベルで生化学的な連鎖反応が引き起こされます。ヒスタミンやセロトニンといった物質が放出され、それが神経系を通じて脳へと伝達されることで、痛みを抑制する信号へと変換される仕組みが解明されています。
ハイテク機器によるメカニズムの「可視化」
fMRI(機能的磁気共鳴画像法)や超音波診断装置といった最新の医療機器により、鍼刺激を受けた瞬間に免疫細胞が移動する様子や、脳の特定領域が活性化する様子がリアルタイムで観察可能になりました。これにより、鍼の効果は視覚的にも証明されつつあります。
伝統的な「経絡」の再解釈
古代より伝わる「経絡図」は、現代医学における神経系や筋膜のネットワークと80%以上も一致していることが判明しています。かつての「ツボ」は、現代科学の視点では「神経系へアクセスするための接続ポート(接続口)」として解釈されています。
科学の壁:プラセボとの戦い(高倉教授開発の研究用鍼の貢献)
鍼灸研究における最大の障壁は、治療効果が「患者の思い込み(プラセボ効果)」によるものか、真の生理作用によるものかを区別することでした。この難問を解決したのが、本学の髙倉教授らが開発した「二重盲検用プラセボ鍼」です。この記事では、このデバイスを用いた厳格な臨床試験により、本物の鍼治療がプラセボを上回る持続的な効果を持つことが世界で初めて証明された過程が述べられています。
医療の未来:エビデンスに基づく医療へ
科学的根拠(エビデンス)の確立により、鍼治療は「代替医療」の枠を超え、「根拠のある医療」として国際的に認められつつあります。副作用が少なく低コストの治療法として、特に依存性の高い鎮痛剤(オピオイド)の代替手段として、WHO(世界保健機関)もその普及を後押ししています。

髙倉教授らが開発した世界初の二重盲検用の鍼 (J Pain 2026:38:105584.より引用)

鍼がプラセボ効果を凌ぐ持続効果を示した (J Pain 2026:38:105584.より引用)