鍼灸の世界

鍼灸医学の可能性

意外に思われるかもしれませんが、鍼灸、特に鍼(Acupuncture)は現在、欧米をはじめ世界中で新しい医学として脚光を浴びています。 ドイツでは医師の10人に1人は鍼を治療に取り入れているというデータがありますし、腰痛、膝痛など日本でもポピュラーな症状に対して保険も適用されています。 またアメリカでは1997年に国立衛生研究所(NIH)が鍼治療の効果について部分的に認める声明を発表したことから、臨床試験も莫大なお金をかけて実施されるようになりました。 その傾向は今でも続いており、鍼灸治療の効果について科学的に証明しようと多くの研究者が努力を重ねています。

東洋医学の全人的思想

鍼灸は中国で生まれ、その後朝鮮半島を介して日本に伝わった、長い歴史を持つ医学です。 鍼灸医学がこのように長い歴史の中で受け入れられてきた背景にはその即効性、簡便さなどがありますが、 最も大きな要因は「心身一如」という、心と身体は不可分であるとする考え方にあるといえます。 ストレスによる「こころ」の疲れが身体に及ぼす悪影響が心配される今、身体の表面への軽微な刺激から 心身ともに健やかにしていく鍼灸医学の需要はますます高まっていくことでしょう。

さまざまな病態に対応できる柔軟な医学

「はりきゅう」と聞くと、お年寄りの肩こりや腰痛を対象とした治療法、というイメージがありませんか? 確かに膝や腰、肩といった関節部の痛みや、筋肉の張りといった運動器系の疾患に対して鍼灸治療はもっとも頻繁に用いられて いますが、そればかりでなく、鍼灸は喘息やアトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患、がんなどの痛み、婦人科疾患など、 多くの病気や症状に対応できる柔軟な医学です。

統合医療の中の鍼灸

現代医学に加え、「相補・代替医療」と総称されるさまざまな治療法(アロマテラピー、サプリメント、芸術療法など) を積極的に導入する新しい医療のスタイルを「統合医療」と呼び、欧米ではこうした医療を実践する医療機関が増えています。 「統合医療」が目指すものは何よりも「患者さんの利益」であり、そこではメンタルなケアも含めた総合的な治療が要求されます。 日本でも鍼灸治療をがん患者さんの痛みの緩和や、慢性疾患の治療などに用いる医療機関が増加の傾向を見せており、統合医療の時代の鍼灸に 寄せられる期待はますます大きなものとなっています。

スポーツ・美容など新たな分野への展開

スポーツ人口の増加に伴い、けがや故障に苦しむ人が年齢を問わず増えてきました。 野球肩やジャンパー膝(バスケットボールやバレーボールの選手によく見られる膝の痛み)などの痛みの治療はもともと鍼灸の得意分野ですが、 今後はけがの予防やパフォーマンスの向上をも視野に入れた治療が求められていくことでしょう。その点、身体を全体的にとらえていく東洋医学の 観点はますますその重要性が見直されていくことと考えられます。

また常に身体をトータルにみる視点は、美容の分野でも重要視されています。 なぜなら美容の対象となるシミやそばかす、肥満、むくみといった症状は、身体の内部の状態と深い関係にあり、 局所的な治療だけでは本質的な解決にならないことがしばしばあるからです。東洋医学では「健美(健康に基づく美)」というコンセプトの下、 その人の持っている本来の生命力を引き出すことで、美容に関するトラブルを解消するだけでなく、より健やかな生活がどのようにして送れるのか を患者さんとともに考えていきます。

女性・子どもに優しい医療

年齢、性別を問わず私たちが生活している社会はストレスで満ちています。そのなかでも女性の体はとてもデリケート。 冷えや生理にまつわる悩みなど女性特有の症状に対する治療では優しい「ぬくもり」のある手当てが必要です。また食生活をはじめとする日々の生活の 送り方についても、よりその人の体質に合った「自然」なスタイルをアドバイスしてあげることが必要になります。女性同様、デリケートなのは子どもの 身体です。特に最近では心身のバランスを崩しやすい子供が増えており、母子ともにケアが必要な場合もあります。鍼灸治療は身体の表面を刺激し、はた らきかけることで崩れたバランスを元の状態に戻していくことができる優しい医療でもあるのです。

鍼灸の魅力とおしごと